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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「お仕事、どうなったかしら」
先日あったとき、もうじき描き終ると云っていた恭介のサロン・ドオトンヌのための絵だった。
「あれはすみましたの。搬入もすまして――ひとつは、その疲れがあったのかもしれませんわ」
二人は、磯崎恭介の横わっている寝台を見下しながら、小声で話すのだった。
「小さいひとは? マダムのところ?」
「ええ。けさ呼んだ看護婦さんが、親切な方で、ずっといてくれますの」
少しためらっていて、伸子は須美子に云った。
「急なことになって、もしわたしのお金がお役にたつようなら、いくらかもって来ましょうか。わたしは少ししかもっていないけれど、借りることができるから――」
「ありがとうございます。今のところよろしいんですの。丁度、磯崎のうちから送って来たばかりのものが、まだ手をつけずにありましたから――」
それをいうとき、須美子の顔の上にいかにも辛そうな表情がみなぎった。日ごろから、須美子は、磯崎の両親に気をかねていて、上の子に死なれたときも、それは、須美子の落度であるように云われた。突然の悲しみの中でも須美子は義理の親たちの失望が、自分に対するどんな感情としてあらわれるかを知っているのだった。