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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
須美子は、日ごろから着ている黒い薄毛織の服の膝の上に、行儀正しく握りあわせた手をおいて、悲しみにこりかたまって身じろぎもしない。黒いおかっぱをもった端正な須美子の顔の輪廓は、普通の女のように悲しみのために乱されていず、ますます蒼白くひきしまって、須美子そのものが、厳粛な悲しみの像のようだった。
須美子のそのような内面の力を、おどろいて伸子は眺めるのだった。須美子の純粋な精神が、悲しみのそのようなあらわれのうちに充実していて、彼女のあんまりまじめな悲しみようにうたれた人々は、なまはんかな同情の言葉さえかけるすきを見出さないのだった。
沈黙のうちに、重く時がうつって行った。伸子は寒くなった。失礼いたします、と、ぬいであった外套を着た。
「須美子さんは、少し横におなりになったら?」
「ありがとうございます」
「さむくないかしら」
「いいえ」
僕も失礼して、と二人ばかり外套を下半身にまきつけた人があった。須美子は動かない。そしてまた沈黙のときがすぎた。
こんなに苦しく、こりかたまっている悲しみの雰囲気を、通夜をする客たちのために、もうすこししのぎよくするのが、いわば女主人側でたった一人の女である自分の役目なのではなかろうか、と伸子は思いはじめた。