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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
朝夕のうす霜で末枯れはじめたいらくさの小道をのぼって行くと、思いがけず茶色の石でつくられた祭壇風の建造物のよこへ出た。二メートルほどの高さで斜面から数本の柱が立っている。そのかげはもうたそがれて薄暗い。そこでは三四十本の銃剣が、いらくさの間から地上に突き出ているのだった。
銃剣は赤くさびている。この斜面に密集して進もうとしていたフランスの歩兵が、隊列のまま土の下に埋められた。
どこか人工の加えられた記念物という感じがしなくもないその「歩兵の塹壕」から一ヤードほどのぼった前方の草むらの間に、伸子は何かキラリと光って落ちているものを発見した。近よって、かがんで、いらくさの蔭に小さく光っている金色の輪のようなものの正体を見さだめたとき、震えが伸子の背筋を走った。それは、一つの銃口であった。地面にのぞいているその小さい一つ口は、そこに在った命を訴え、彼が生きていたことを訴え、だが今は死んで久しくなったことについて訴えている。伸子は、おもわずその金色の口を撫でた。金色の口は小さく、円く、あわれにかたかった。
伸子は、しばらくそこにかがんでいた。この金の口が光っているわけがわかった。