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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ですからね、そろそろ帽子の方も、ものにして置こうと思いますの、そうしたら心づよいですもの、ね」

亀田の細君は、おかっぱの前髪を伸子の方へ低めておかしそうにささやいてくすりと笑った。

「とのがたは、なんにんいらしても指をタバコのやにで茶色にするか、売れない絵の油でしみだらけにするしか能がおありなさらないけれど、その間にこうやってわたしの可愛い指は稼いでいる――それは一向御存じなしなのよ」

デュト街の古びた家の壁の間で、痛々しい生命を芸術の焦躁のうちに削ってしまった磯崎恭介と須美子の自分というものを最後までおさえた暮しぶりと、クラマールのここにある亀田たちの暮しかたは何というちがいだろう。亀田の細君は、あるときは意識してそうしているかのような小猫めいた賑やかさ、暮し上手の女がもっている笑声、いつも身のまわりにとりちらされている柔かくて色彩のきれいな布きれなどの雰囲気で、夫である画家の絵の精神を女の陽気な仕事部屋へひっぱりこんでいることが気づかわれるようでさえある。

みんなでサロン・ドオトンヌを観に行ったとき、パリで亡くなった磯崎恭介の「花」や須美子の「花」