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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
九
「南京虫」の第四場までは一九二九年現在の反社会主義への諷刺的な場面であり、第五場からが五〇年後の社会主義社会での場面ということになっている。
舞台へ、巨大なつくりものの「南京虫」が大警戒のもとに運搬されて来る。
「南京虫」は大衆の現実のなかで珍しい棲息物であるどころか、云ってみれば、しらみと同じ日常の虫だから、スターリングラードのホテルの寝台で伸子をおちおち眠らさなかったぐらいのものだから、五〇年後の社会ではその虫が、たった一匹保存標本として存在しているというような仮定そのものが、観客を笑わせずにおかないのだった。南京虫をきわめて有害なものとして、警戒するおかしみ。その虫のいかがわしい習性についてことこまかに説明する博物教師の科白の諷刺的なおもしろさ。
メイエルホリドの機智とマヤコフスキーの言葉の魔術は、この舞台にもおしみなく発揮された。そして「南京虫」の一場一場は、機械的にわりきられた明快さと、観客の哄笑のうちにすすんでゆくのだった。
伸子と素子とは、ときどき大波のように場内をゆすぶる笑声の中に漂いながら、或いは笑いの波をかいくぐりながら、奇妙なものうさを制しきれなかった。