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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

或る会社につとめて有能な彼女の夫は、栄達の機会が来るごとに、大杉栄の妹を妻にしているということから、もうちょっとのところでその地位をひとに奪われた。結婚してから、三四度、そういうことがくりかえされて来ている。口には何とも云わない夫の心のうちを思うと堪えがたくて、さつき夫人は、幾たびか、身をひこうとした。そのたびに、幼い宗一が母を失うということが夫婦の結びめとなっていた。その宗一までも、大杉栄の甥であるということのために殺された。わたくしがどんなに努力して、まわりの幸福をねがっていても、それは決して許されない運命なんでございます。

その席にいた伸子の体は、さつき夫人の語る言葉で簀巻きにされるように苦しかった。佃との結婚生活におちつけなくて、三島しづ子の活動的な日常に近づいていた伸子は、一途な思いで、さつき夫人夫婦の考えかたは、被虐的すぎる、と思った。世間並でない事情をもって愛しあって行こうとする夫婦なら、どうしていつまでも世間並の会社づとめやそこでの出世などにかかずらっているのだろう。それこそ、手鍋下げても、いいであろうに、と。しかしさつき夫人にとって、自分さえいなければいいのだ、という考えを変えることは、彼女の全コースをくずすことらしかった。