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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十二
伸子たちは、メーデーの半月ばかり前から思いもかけず、ベルリンからモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来た若い画家の蒲原順二と、一つホテルの部屋に雑居生活をしているのだった。
蒲原は気をくばって、夜着物をぬいで寝るときとか、朝起きて女二人の身じまいする間、場をはずして、伸子や素子の迷惑にならないようにふるまった。そのかぎりでは、一人の男が、二人の女の中にまじった生活も大した煩わしさではなかったが、そもそも、蒲原順二が伸子と素子の生活に出現したいきさつは唐突だった。
ある午後В・О・К・С(対外文化連絡協会)から伸子に電話がかかって来た。このごろは、あまりВ・О・К・Сへ出かけない伸子に、是非たのみたいことがあるから、すぐ来てくれるように、というのだった。
「何の用なのかしら」
また日本から、芝居か映画関係の人が来て、その交渉の助手のような用でもあるのかと思った。
「あなたをよべばいいのに」
仕度をしながら、伸子はいくらかこぼす口調だった。
「あなたなら、言葉もちゃんとわかるんだのに」
「わたしは、いやだよ。ぶこちゃんがいいのさ。わたしのつっかえつっかえの正しいロシア語より、ぶこの一斉射撃の方が、結局役に立つんだろう。