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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「そんなものか。君の本なんかは、どうかい」
「わたしのなんか、少いですよ」
伸子は、いくらかくつろいだ笑顔をした。
「こっちへ来る前にかいた長篇は、千と二千の間だったようです」
「そんなことじゃ仕様がない!」
白髪の頭を山上元はきつくふった。
「プロレタリア作家の本も、日本じゃそんなに少ししか売れないのかい?」
「それはもっと多いでしょう。『戦旗』だって、かなり出ているらしいし、『太陽のない街』や『蟹工船』は、もちろんもっと出ています」
「それだって日本じゃどうせ高がしれたもんだろう。こっちじゃ、ファジェーエフの作品なんか百万部よまれているよ」
それはそのわけだった。図書館、労働者クラブ、学校・工場・役所の図書室、ソヴェトじゅうの公共施設は、あらゆる古典と現代の代表的な作品をそなえつけようとしているのだから。それが五ヵ年計画の文化計画の一部であった。
「日本の読者は、めいめいの懐で、一冊の本だって買わなければならないんですから、つらいんです」
「それもそうだな」
山上元は、ちょっと考えこんだ。彼も、青年時代には、一冊の本を買うことも出来にくい生活だったのだ。
「ところで、どうだい、ほんとに、こっちで暮す気はないかね」