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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
しかし、きみぐらいの技術と経験があれば、何もここにいたからって、日本の小説が書けないと、きまったものでもないだろう。僕を見なさい。僕は、もう二十年日本をはなれているよ。しかし、日本の現実について、ちゃんとわかることができるし、情勢の判断も出来ている。――」
「そりゃ、報告をもっていらっしゃるから」
伸子は思わず高い声を出した。
「もちろん、そうさ。報告によって書くんだが、小説だって大してちがいはしない」
はげしい動揺と混乱の間で、山上元のこの言葉は、伸子に自分というものが、立つ、小さな場所を与えた。山上には、文学の作品がどんな工合にしてうまれるものか、全然理解されていない。
「あなたが、報告によっていろんな問題を具体的に判断おできになるのは、何と云ったって、日本で、自分で、労働運動をやっていらしたからじゃないでしょうか」
「うん、それはそうだ」
しばらく、二人の間に話がとぎれた。やがて山上が伸子にきいた。
「日本では、いま本をどの位発行しているかね?」
「部数ですか?」
「うん」
「文学書は、千か二千ぐらいじゃないでしょうか。大菩薩峠なんてものは、何万でしょうが」