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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

第二章

一

カトリ丸の出帆は汽車と同じように日どりを狂わせない。さぞ大騒動であろう佐々の全員の出発も、船の出帆ばかりはのばさせられないという条件から確実にされている感じで、特別な連絡のないかぎり、旅程は順調にマルセーユに向って進められているものと伸子は信じていた。

六月も末になるとパリにも夏らしい暑さがはじまった。メーデーがすぎると急に乾きあがって昼間は埃っぽくなるモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の夏とちがって、パリの空気は乾いて燃えはじめても、埃っぽさは少なかった。ガリック・ホテルの伸子の室は、午後になるとこれまでよりずっとひろく深く西からの日に照りつけられて、夜更けまで露台へのドアをあけておくようになった。建物の内庭に面した素子の室では西日はささないかわり、朝早くその内庭へ来るボロ買い男の調子のいいよび声や、内庭で自働オルガンをならしながら、窓々から小銭のなげられるのを待っている物乞いの唄、ラジオだかレコードだか小刻みなフランス風のダンス曲など、さまざまの響が窓からはい上って来た。二人はガリック・ホテルの三階から、七階のてっぺんの部屋に移ったのだった。