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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
いくつか階段をのぼって、やっぱり殆ど真暗な一つのドアの呼鈴を押した。
すらりとした、薄色のスウェター姿の婦人が出て来た。それが、ケンペルだった。
狭い玄関の廊下から一つの四角いひろい室にはいった。あんまり明るくない電燈にてらされている。その室の一隅に大きなディヴァンがあった。もう一方の壁をいっぱいにして、フランス風の淡い色調で描かれた百号ぐらいの人物がかかっていた。その下に、膝かけで脚をくるんだ一人の老人が揺り椅子によっていた。伸子たちは所在なさそうに膝かけの上に手をおいているその老人に挨拶をしてそこをとおりぬけ、一つのドアからヴェラの書斎に案内された。
「見て下さい。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の住宅難はこのとおりですよ。私たちは、まるで壁のわれ目に棲んでいるようなもんです」
ほんとに、その室は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来てから伸子が目撃した最も細長い部屋の一つだった。左手に、一つ大窓があって、幅は九尺もあろうかと思う部屋の窓よりに左光線になるようにしてヴェラの仕事机がおいてあった。伸子たちが並んで腰かけたディヴァンが入口のドアの左手に当るところに据えられていて、小さい茶テーブルや腰のひくい椅子があり、その部分が応接につかわれていた。