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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
やがて、佃の本籍地の役場で離婚手続きはされなければならないとわかったときの新しい不安。――ヴィヤトカ・レースのショールをかぶって、雪明りのさしている静かな病室に横たわりながら、あの暗澹としたこころもちを思い出すにつれ、伸子は、女だけがあれほどの恐怖をくぐって生きなければならない社会で、結婚の公然性など、いうも偽善だと思った。
ナターシャは美しい。若い強壮な動物がはらんでいるような荘重な純潔な美しさにみちている。そのような彼女の美しさは、ナターシャが彼女の現在あるすべての条件において公然と存在しているからこそ、日ましにはたん杏色の濃くなる彼女の頬の上に、日ましにふくらむ看護婦の白前垂の上に輝き出ているのだ。病室へ来て、赤い頬やエプロンの上に澄んだ雪あかりをちらつかせながら無心に何かしているナターシャを眺めていて、伸子はもうすこしで、
「あなたがたにとってソヴェト権力がどういうものだかということはほんとによくわかるわ」
と云いたくなることがあった。そんなとき伸子は黙ったまま白いショールと白い枕との間で、東洋風な一重瞼の黒い眼をしばたたきながら辛辣に考えるのだった。