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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そう。あのころ佃は毎晩伸子の病室へ訪ねて来たのだ。枕の上へリボンを結んだ二本の編下げをおき、それを待っていた自分。夜がふけてもうエレヴェータアのとまった病院の階段を一段一段遠のいてゆく靴音を追って耳を澄していた自分。それを思い出すことは、現在の伸子につらかった。その足音と顔とからにげだすために、あんなにも死もの狂いにならなければならなかった自分。それを思い出すことにも苦しさとこわさとがあった。

セント・ルークの病院にいたころ伸子の全心に恋があったから、ミス・ジョーンズの婚約指環に対してもあんなにやさしい同感があったと云えるかもしれない。それにしても、と、伸子は重苦しい記憶をのりこして考えるのだった。ミス・ジョーンズは、何とあの婚約指環を大事にし、自分たちの幸福の要石がそこにあるようにしていただろう。伸子が、彼女の大切な指環のありかを知ってからミス・ジョーンズはよくあの胸から下げている小袋を出して、一粒のダイアモンドを見た。そのたびに伸子は不思議な感じにとらわれたものだった。辛苦のこもっている見事なそのダイアモンドの婚約指環は、それがミス・ジョーンズのエプロンの下から出て来るとは思いがけないだけに、伸子には何だか、その婚約指環が金の結婚指環と重ねてはめられるときが、ミス・ジョーンズにとってなかなか来そう