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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
うちのものが少くとも恙なく旅をたのしむには多計代の健康が第一であり、そのために金はかかっても、涼しい太平洋の北方航路をとり、アメリカも北方鉄道でぬけて大西洋からフランスへ来た方が、安全と思われるのだった。
日本ではきょう和一郎と小枝の結婚式があげられたという夜、伸子は何とはなし眠りにくくて、九時すぎても病室のあかりを消さずにいた。
かれこれ十時になろうとするころだった。伸子の病室のドアがあいて、よほど前に一ぺん見たことのある女の助医が入って来た。看護婦とフロムゴリド教授の助手であるボリスとのちょうど中間のような地位で、伸子が入院して間もなく回診について来たことのある女助医だった。
「こんばんは。――いかがですか?」
伸子が名前を知らない女助医は、ずっと伸子のベッドのそばへよって来た。
「久しくお会いしませんでしたね。もうほとんど恢復しなすったんでしょう?」
この前みたときと同じ四角い乾いた顔つきで、彼女は愛嬌よくしゃべりながら、伸子を見たりベッドの枕もとのテーブルの上へ眼を走らせたりした。
「今晩、わたしは当直なんです。あなたのことを思い出しましてね、よし、ひとつあの気持のいい日本の御婦人を見舞って来ようと思いついたんです」