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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そして、そういうみいりも、カール・マルクス館に住んでいる余徳だと思われているとすれば、労働者の生活として、何という矛盾と偽瞞だろう。伸子は、そういう風に感じずにいられなかった。エハガキ売りの少年の、おとなしくしつけられた、感じのいい物乞いとでも云えるものごしは、素子にもある感銘を与えたらしかった。彼女は、ぶっきら棒に、
「ここへは、誰でも労働者なら住む権利をもっているんですか」
と黒川にきいた。
「今のところ、ここに住んでいる二百七十世帯ばかりの労働者は、大体のところ、古くから社会民主党に入っている労働者の家族ですね」
「――政党労働貴族ってわけですか」
すると黒川は、
「ロシアだって事実はそうなんでしょう?」
からかうような笑顔で伸子を見た。
「コンムニストの労働者だけなんでしょう? 住宅なんかもてるのは――」
「こっちではそういうことになっているの? ロシアって何でもコンムニストだけでやっているっていう話があるのかしら。はっきりおぼえてはいないけれどもソヴェトのコンムニストは人口の一パーセントぐらいよ」
「――ともかくここの社会民主党の政策は、こういう住宅をどんどんふやして、労働者の生活を向上させて行こうとしているんです」