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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ふーん。そういうことになるかな」
眉のあたりをうっすり赧らめたが、川瀬は青年らしくいくらか気取っているいつもの態度を崩さなかった。中館が、またせりふのように、
「小細工というものは、とかく看破されがちだね」
と云ったので、みんなが笑い出した。彼らのグループの間では公然のひとになっている愛人を、川瀬はどういう都合か伸子たちに紹介しなかった。伸子たちの方でもそれにはふれず、彼とつきあっているのだったが、川瀬はそのひとと過す夜の時間をつぶさないで、伸子たちにも不便をさせまいと、二人に前売切符を買わせておくという便法を思いついたにちがいなかった。
金をしらべていて、三人の間の寸劇を知らなかった素子が、
「そろそろ出かけましょうか」
女もちの書類入の金具をピチンとしめて立ち上る仕度をした。そして四人は、もよりの駅からウンテル・デン・リンデン街まで地下鉄にのりこんだのであった。
十
数日たってゆくうちに、伸子は、素子と二人ぎりで行動できるように前もって切符の買ってあったことに、思いがけない便利を発見した。一方に、伸子のまたいとこである医学博士、木曜会の幹事である津山進治郎がいることから、ベルリンで伸子たちが動く軸が二つになった。