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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
百貨店を思わせるほど絶え間ない人出入りのある一階正面で、上下しているエレベータアには、手間と時間をはぶくというベルリン流の考えかたからだろう。ドアもなければ、それぞれの階で止まってゆくという普通の方法もはぶかれていた。エレベータアにのるものは、あけっぱなし無休止の箱が自分たちの前へゆるくのぼって来たり下って行ったりした瞬間をとらえて、せわしくその中へ自分をいれるのだった。その乾きあがった気ぜわしさがどうにもなじめなくて、伸子は一台の箱をやりすごしたまま、立っていた。折から下りて来たエレベータアの箱が、床からまだ十数センチもはなれて高いところにあるのにそれを待てないで、とじあわせの紙をヒラヒラさせながら若い一人の行員がその中からとび出て来て、半分かける歩調で窓口の並んだホールの奥へ姿を消して行く。必要以上に全身の緊張を感じて箱へ入るとき、必要以上に脚をもち上げるような動作で伸子と素子はやっと三階へ往復する用事をすませた。そしてほっとして窓口のならんでいる一階のホールへ行ったときのことだった。大理石の角柱がたち並んだ下に重りあってこみあって動いている外国人のあまたの顔の間から、伸子はちらりと一つの日本の顔を発見した。