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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

語られていた。

笹部準之助の文学の世界に目を近づけてみれば、そこには男女の自我の葛藤が解決を見出せないままに渦巻いている。伸子は、相川良之介の、遂に生き得なかった脆く美しい聰明に抗議を抱いて生きる一人の女であった。それと同時に、もう一つ前の時代の笹部準之助の文学が、無解決のまま渦の巻くにまかせてそれを観ている人生態度にも服さないで、自分の生活で、きょうの歴史には別の道をきりひらく可能があるということをたしかめたくねがっている女である。ベルリンの機械化されたテンポに追い立てられて、まごつきながら抵抗を感じ、不機嫌な表情でドイツ銀行のホールに現れた伸子は、せっかちぎらいの気持でいっぱいになっていた。そこへはからず笹部準之助そのままの顔だちを見つけた瞬間、伸子の感情のつりあいはやぶれて、いきなり自分が人生や歴史のうちに模索していて、まだ解決していない課題が、生きた顔でいきなりそこへ現れたような感じだった。あら、と小さく叫んで手袋をはめている自分の手を素子の手にふれたとき、自分の爪先まで走った衝撃は伸子の体じゅう、生活じゅうに通うものだった。

大理石の角柱の下に誰かを待ち合わせていたらしい笹部準之助の顔は、遠くから、やきつくような視線が向けられていることを感じたらしく、人のゆき来の間からいぶかしそうに伸子が立っ