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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子にはそう感じられないのだった。

「いいと思うな。スーツが女のなりの基本になっているだけのことはある。しゃんとしてるもの」

ウィーンでも素子のこしらえたのは二組のスーツだった。一着は、いまつくろっている上着とそろいの。もう一つは、ひどくしゃれた渋いスーツで、紺地におもしろい縞がほそく出ているコートとスカートに、とも色でドローンワークした白いクレープ・デシンのブラウスが組み合わされた。伸子は、その同じ店で、おちついた細かい格子のワンピースにともの春外套のついたのを選んだ。その薄毛織地のワンピースの衿のところには、肌色と紺のなめしがわでこしらえた椿の花の飾がついている。ベルリンへ来てから、伸子は初夏用の服を一着買った。それもさらりとした肌ざわりの、月光のような色あいのワンピースである。

伸子はしばらくだまっていて、

「そう云えば、わたしはスーツきないわねえ」

と云った。

「どうしてかしら。――旅行用にでもきる気がしない」

「そりゃそうさ。ぶこちゃんみたいなはいはい人形がスーツきられるもんか、窮屈で――」

たしかにそれもそうだった。素子のすらりとした体つきから見れば、伸子はまるまっちくて、手脚が短かいのだから。