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さんまいつづき

三枚続

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1900(明治33)年8月9日~9月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 页

青空文庫

その帯をまだ結び果てなかったほどのことで、光起は今貴夫人を診察し了して、立身になり、片手を卓子につきながら、低声で何か命じて、学生にその筆を運ばしめていたが、ちょっと筆を留めて伺った顔に頷いて見せて、光起は衝と立直った時、ふと、帯をしているお夏を見て、

(済みましたか。)

(ええ、)と頷く。

(痛かったでしょう。)

(はあ、)と事もなげに、淡泊に答えたのである。

光起は微笑んで、

(貴女、母様のいうことを肯かないとまたできますよ。)

お夏は襟を啣えるようにして、差俯向いて、颯と顔を赧らめたが、何にもいわないで莞爾した。

愛吉は額を撫でた。

医学士の言葉とお夏の素振を、附添は嬉しそうに、

(お夏様、あれ御挨拶をなさいましな。)

(知らない、)と素気ないことをいって再び莞爾。

(先生、癬の治ります薬はありませんでしょうか。)と不意に言い出したのは件の貴夫人であった。

(打棄っておおきなさい、)と光起は言下に応ずる。

(でもあのこんなですから、)とさも世馴れた、人懐こいといったような調子で、光起に背を捻向けると、頸を伸して黒縮緬の羽織の裏、紅なるを片落しに背筋の斜に見ゆるまで、抜衣紋に辷らかした、肌の色の蒼白いのが、殊に干からびて、眉を造った、白粉の濃い、金縁の眼鏡に瞼の皺をかくした顔こそ若けれ、あらわに見ゆる筋骨は数四十である