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さんまいつづき

三枚続

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1900(明治33)年8月9日~9月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 页

青空文庫

「何だ、火事だ。」

「火事だ?」と口々に尋ねたが、これは事件の緒口を引出そうとするに過ぎない、皆々は云うまでもなく、その間の消息を解していた。

「こ、こ、こいつじゃ、火事はこいつじゃ。」

人数が襲い来ったので思わずおさえていた袂が弛んだ、お夏の手を振放して、婆は蔵人に躍りかかった。

「何をするんですよ。」

遮ろうとするお夏の帯を、ぐいと留めた者がある。同時に婆を突退けて、

「まあ、待ちなさい、」と一名。

発奮をくらい、婆は尻餅をついて、熟柿のごとくぐしゃりとなったが、むっくと起き、向をかえると人形町通の方へ一文字に駆け出した、且つ走り、且つ声を絞って、

「火事じゃ、火事じゃ。」

「あれ。」

嬰児を懐にしっかと圧え、片手を上げて追懸けたのは、嘉吉の家の女房である、亭主その晩は留守さ。

「さてお夏さん、思切っておくんなさい、二三日前から薄々様子は知っていなさろうがね、町内じゃあ大抵気にするッたらないんだから、一番ね、思切って私等に鶏をおくんなさい。何も宵啼をすりゃこうと、政府からお触が出たわけじゃないけれども、可うがすかい、心持だ。悪いことは謂いませんや、お前さんのお為にその方が可かろうと思うからね。