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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

そこへ海老塚医師がおくれて一人はいってきた。

「やア、お待ち致しておりました。お忙しいところお呼びだてして相済まぬ次第です。毎晩欠かさず当家へお見えの由ですが、今晩は急患がありましたか」

「馬鹿馬鹿しい。なぜ毎晩こなければならないのですか」

医師は腰を延ばすような構えをして、横柄にギラリと目を光らせた。そして、又、

「バカバカしい」と呟いた。

「海老塚さんが昨晩当家へ来られた時間は、何時ごろでしたか」

「そんな時間をなぜ覚えておく必要がありますか」

「病院を出られた時間はお分りでしょう」

「私は時計の番人じゃないです。鐘ツキ堂の堂守のほかの人間は一々時計を見て生活するものではないです」

「しかしですな。一般に、我々がよそのウチを訪問する場合には、今は何時何分ごろだから、あそこへ着くと何時になる、そう考えるのが自然だろうと思いますが、海老塚さんは、そうではありませんか」

「もしも、そうでなければ、いよいよ彼は気違いです。海老塚先生。お分りか。警部の言われる通りだよ。人間がよその家へ行くために自分の家をでる時は、必ず時間の意識がなければならぬものさ」

と、木ベエが突き刺すような冷めたさで言った。