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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

私の仕事部屋をのぞきにきて、

「ここは、ずいぶん、田舎にしては、粋なお部屋ね」

「そうなんですよ。はなれのこの部屋だけ、特別なんですよ」

目の下がすぐ渓流である。私の部屋の窓の外を、山の漁師が、ごめんなさいよ、とていねいに挨拶して、通って行った。

「あら、ここは庭じゃなくって、道なんですの?」

「こんな山奥には、庭も道も区別がないんでしょうよ。ほら、そこから、谷へ降りる道があるでしょう。あの降りたところに澱みがあって、このへんで屈指の釣場なんだそうですよ。ごらんなさい。私もちゃんと釣竿を買ったんですよ。仕事のあいまに時々窓から降りて、あそこで釣をするのですよ」

「釣れましたの?」

「まだ一匹も釣れません。時間が悪いからですよ。それに、釣道具も、この宿で売ってる最下級の安物だから、アユだのヤマベだのイワナをつるには無理ですよ」

「釣れたら、見せてちょうだいね。じゃア、さよなら」

と、あやかさんは帰って行った。

やっぱり、どうも、あやかさんみたいな珍客がきたり、その珍客が引きあげて行ったりすると、落付かないもので、私は仕事ができなくて、ちょッと釣糸をたれてみたりしたが、だめだ。