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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页
そこまで来ると、もう彼の家の屋根が葉の落ちつくした桜の梢のかげから、ちらと見える。
彼は、ゴクリと唾を呑みこむ。やけに胸騒ぎがするのである。おかしなものだ、と、彼は思う。自分を変なやつだと叱りたいような不機嫌な気持である。彼は、やゝ古びた檜丸太の門柱に眼を注ぐ。たしかに、わが家へ辿りついたのだけれども、彼の足は、鎖がついているように重い。
門の扉は内側から閉まつている。開くまで待つか、ドンドンと叩くか、外から声をかけるかするよりしかたがない。呼鈴をなぜつけておかぬのか。
彼は、突嗟に、その門を乗り越えることを思いついた。なんでもないことであつた。玄関に呼鈴はついていたけれども、わざと勝手口へ回つてみた。と、そこには、手拭を頭にのせた母が、散らかつた薪屑を箒で掃き溜めているではないか。跫音で、彼女は、顔をあげた。
息づまるような一瞬の後、母の手から、竹箒がするすると地面にすべり落ちた。
「お母さん」
と、彼は、呼んだつもりである。喉がつまつて、その声はまともに出なかつた。
「兄さんじやないの……兄さんだわ……帰つて来た……帰つて来た……」
彼女は、そう言いながら、一歩一歩、彼に近づいて来た。