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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页

青空文庫

「あの、あたくし、ぜひちよつと、こちらのご主人さまにお目にかゝりたいんでございますが……」

と、口ごもりながら、言つた。

「失礼ですが、どちらから……?」

「名前なぞ申しあげてもしようがございません。熊谷からとおつしやつてくださればわかります」

「あの、熊谷? どんなご用事か存じませんけれど、たゞいま、あいにく、出かけておりますんですが………」

「では、お帰りになるまで、こゝで待たせていたゞきます」

ものゝ二時間も、玄関の敷台に腰をおろしたまゝ、てこでも動こうとしないこの女を、母も、妹の多津も、うさんなという眼つきでみないわけにいかなかつた。それでも、妹の多津は、寒いだろうといつて、小火鉢と座蒲団を出し、しまいに、茶をいれてすゝめるというぐあいであつたが、やがて、それとは知らず、父の憲之が表をあけて、ひよつこり帰つて来た。

女は、起ちあがつた。父は顔色を変えて、コウモリ傘の柄を握り直した。

意外な、この男女の対面は、ちようど小門の開く音を聴いて出て来た母の視線からのがれることはできなかつた。

「なにしに来た」

と、父は、うろたえた拍子に、へたに一喝した。

「なにしに、ですつて……? お目にかゝらなければ、話がわからないからですわ」