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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页

青空文庫

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彼は、彼女と最初に識り合つた日のことをはつきり覚えている。

それは太平洋戦争の始る前の年の夏の終りであつた。彼はまだ外国語学校に籍はおいていたが、家庭教師、筆耕、翻訳の手伝いなどの収入で、少しでも家の負担を軽くしようと、それこそ青春の誘惑には眼もくれぬという時代であつたが、ある日の夜遅く、高円寺に住む某銀行家の息子の中学生に初歩の英語を教えに行つた、その帰りみちで、ふと誰かが落したらしい紙入れを拾いあげ、駅前の交番へそれを届け出た。ところが、その紙入れの落し主が、ちようどその交番へ来合わせていて、話はすぐにわかつた。落し主というのは、五十がらみの紳士で、やはり高円寺に住んでいるらしく、差出された名刺には何々製薬取締役とか、何々協会理事とかいう肩書が二つ三つ並べて書いてある。警官に中身を一応調べさせ、現金はいくらもはいつていないが、この通りの額の小切手も入れてあることだし、慣例に従つて、一割のお礼をしたいと、その紳士は申し出た。そして、折鞄から小切手帳を出して、その場で二千何百円という小切手を書こうとするのを、京野等志は、そんなものは絶対に受取らんと断つたのである。