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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
そんな土地がらですから、娘ざかりのものが馬に乗って、暗い夜道を通るなぞは平気でしょう。その人たちが男を助けて外でかいがいしく働く時の風俗は、ももひき、きゃはんで、めくらじまの手甲をはめています。かぶりものは編みがさです。まあ、かわずふぜいがそんなことを言ってはなんですが、これも見学のためと思って見てきたところでは、娘も美しいと言いたいけれど、さて強いと言ったほうが至当で、すこやかな生き生きとしたおもざしのものが多いようです。
川上を見てきたかわずは、いろいろと土地の馬の話をも聞いてきてそのことを相手のかわずに語り聞かせました。
あのシナのほうで清仏戦争があった後、フランス兵の用いた軍馬は日本陸軍省に買い取られて、海を越して渡って来たとのこと。その中の十三頭が種馬として信州へ移されたのです。気象のいさましい「アルゼリー」種の馬が南佐久の奥へはいったのは、その時のことで。今日ひと口に雑種ととなえているのは、その「アルゼリー」種をさしたものと聞きます。その後、米国産の「浅間号」という名高い種馬もはいりこんだそうです。それから次第に馬の改良ということが始まる、馬市は一年増しに盛んになる、そのうわさがなにがしの宮殿下のお耳にまでとどくようになったとか。