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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

白酒、ひしもち、桃の花の掛け物、それに紅白の豆いり――その日を祝うものは、多く山のものですね。

「ごめんください。きょうはおじょうさんのお節句で、おめでとうございます。わたしどもは山のものではありませんが、おなかまに入れていただこうと思いまして、お祝いにあがりました。」

こんなことを言って、さざえやはまぐりが海からわざわざそこへ祝いにやってきます。

それに比べると、五月五日の節句を祝うのが多く川や海のものであるのも、おもしろい。軒にふくしょうぶ、ちまきに巻くまこもの葉、さわやかな五月の風にしっぽを振って大空を泳いでいるようなのぼりのこい、あの長いひげをはやし、黒い衣装をつけて、魔よけの剣をふるっている鍾馗までが、どうも山の人ではなくて、唐国あたりから船で海を渡ってきた目の大きな人のように見えます。五月の節句に飾るものも三月とは大違いで、鎗、刀、甲、冑、弓、矢、それから人形でもなんでも黒い腹掛けをかけた力のある金時のたぐいです。

「ごめんください。きょうはぼっちゃんのお節句で、おめでとうございます。山のものもめずらしかろうと思いまして、わたしどももお祝いにあがりました。