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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

まったく昔の人の考えておかない新しい意匠で、これが自分のものだと言えるような刀が、なかなか打てるものではありません、とさ。

それから、来助老人は自作の刀を取り出してきまして、

「まあ、自分の打った刀は、見たところはそうよくもありませんが、人は切れるつもりです。」

そんなことを半分ひとりごとのようにしながら、白鞘をぬいて見せました。においと言っていいか、ひびきと言っていいか、わたしにはその刀を形容することもできませんが、見ているうちにこちらの心が澄んでくるような作で、ことに力をこめて鍛えてあるその刀の重さにはおどろかされました。来助老人はその年になっても、物を学ぶ心の衰えない人とみえ、刀鍛冶とは言いながら『輿地志略』のような地理書をそばに置いて、世界のことを知ろうとしているところもありました。老年になってもこんな人もあるかと、そうわたしは思いました。

それから後の日に、まだ石山に逗留していたころ、一度茶丈のほうで来助老人を待ち受けたことがあります。老人がたずねて来てくれるというものですから、わたしはいっしょにそまつな食事をするつもりで、わざわざ瀬多のほうまで湖水名物のこいなどを買いに出かけ、それを自分で料理しました。