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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

よく寄ってくれた、土地の案内もしようからまずわらじをぬげ、宿屋に泊まるくらいなら自分らの家に泊まれと言って、若い主人の母親までがしきりに引きとめてくれるなぞ、思いがけないもてなしぶりでした。だんだん聞いてみましたら、東京での主人すじからこんなにたずねてきてもらえることはめったにない、これというのも娘たちが奉公先での勤めぶりに怠りのなかった証拠であると言って、そのことが農家の人たちをよろこばせたのです。どうして農家とは言いましても、炉ばたは広く、蔵のあるような相応な暮らしの家で、こんな家庭からでも娘を東京へ修業に送るのか、とそうわたしは思いました。

あくる日は、その家の若い主人の案内で、誕生寺のかいわいに小半日の時を送りました。その海岸まで出て行けば網も干してありますし、なまぐさいおさかなのにおいもしてきますし、海からとりたてのひじきをゆでるところかとみえて、野天に大釜をかけた土竈からは青々とした煙の立ち上るのも目につきました。

その晩はまた若い主人の家のほうに帰って、みんなでいっしょに農家らしいいろりばたに集まりました。吉村さんにつとめていた娘たちも、親元へ帰ってからそれぞれ縁づいていましたが、わたしの出かけて行ったのを聞いて会いに来ました。