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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
さけは白っぽい腹掛けに身をかため、たいは赤いはち巻きをしていました。
さけが言うには、たいさん、わたしはこれで旅なれています。これからわたしは北へ伸して、大海を味わってきますよ。このとおりわたしは元気ですが、まだこんな油の乗りかたではまんぞくしません。わたしは行って、もっとからだを鍛えてきましょう。年の暮れまでには帰って来るつもりですが、来年はどんないいお正月が来るか。おそらくみんな春待つ思いで、かちぐり、ごまめ、こんぶなぞを用意し、いろいろと年越しのしたくをして、わたしの帰りを待っていてくれるでしょう。わたしがいなければ、仙台の人は年を取れませんからね。
たいが言うには、お前さんのその元気には驚きます。お前さんの鼻は少し曲がっているように見えますが、それでいて、みんなに好かれるには、これにも驚きます。わたしをごらんなさい、みんなで寄ってたかっていろいろなことを言って、金華山沖のたいは、目の下一尺もあって、値がただみたようで、いいおさかなですことの、なんのかんのと、えらいお世話です。しかし、わたしは何事もしんぼうしなければなりません。今にいい時節がめぐって来て、桜の春とでもなりましたら、どんな貧しい家へもたずねて行ってやりましょう。