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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

――そこで、もひとつ、訊きたいがなあ」

「なんです、左右太さま。……じいっと、ひとの顔を見たりして」

「どうも、いつものお次さんとは見えないもの。何か内輪事の、心配でも起ったのか。……え、お次さん。それとも、どこか気分でも」

左右太は、そっと、かの女の肩を抱いていった。その肩も、おくれ毛も、すぐ泣きふるえ、訊ねられた二つのうちのどっちかに、触れたことは確かである。

「わ、わたくし……。もう、あなたとは」

「えっ、何。……あなたとは? ……どうしたって」

「左右太さま」と、いきなり彼の胸へ、しがみつくように、泣き顔を押しあてて、

「……あ、あなたと、交わしたお約束は、どうか、水に流してくださいませ。お次はもう左右太さまとは、夫婦になれない身になりました」

「な、なにをいうか」

と、左右太も、気色ばんで、ぎゅっと、お次の肩の両方を、わしづかみにして、その泣き顔を、揺すぶった。

「わけをいえ。泣くのが、いい訳ではあるまい。わけに依っては、どこへでも、好きな所へ、嫁にゆけ」

「ほかへ、お嫁になんか、行くので泣いているのではありません」

「では。……どうした仔細だ」

「ね、姉さんが……。