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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

家出していた姉さんが、急に家へ……帰って来たんですもの」

左右太は、笑い出した。――何のこッたと、わざと、表情していった。

けれど、お次は、かれが笑うほど、悲しんだ。泣きじゃくッてやまない程に。

そう思いつめた理由も、聞いてみれば、無理もない。左右太は、笑ったことを、すぐ悔いた。

かの女に、お島という、ひとりの姉があった。

お島は、浮気性で、まだ肩揚げもとれないうちから、町の男たちと、ほッつき歩き、親をすてて家出してからも、十幾年という間、風の便りも断っていた。

それが、前の月。――あの御隠殿下の手入れのあった翌日。ぶらと、

(ここが、私の生れた家だッてね)

と、物珍しそうに帰って来た。

お島が、家出した頃は、まだ石焼豆腐はしていなかった。日本ばし裏の、ただの豆腐屋だった。店を、こうしたのは、死んだ父親である。母は、中風で、いつも寝ていた。

――父が死んでも、店が繁昌しているのは、お次が、かんばん娘として、たれにも評判がよいからだった。

(おまえは、私を覚えていまいね。私は、おまえの姉だよ。あんまり、邪魔者あつかいにしないでね)

帰った日のその晩から、こんな言葉で、お次を悲しませた。