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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

小説でもわかるように云う、云いあらわすということで、或場合、決して作者の自然発生な表現のままでは不十分ですね。低くなるということとは別なわからせてゆく力、いろいろな要素からそれは出来て居ります。特にその作家が、常識の波調のままの情緒でものを云っていない場合、ね。

この間、私が余りいそがしくて詩集くりひろげるどころでないかい、と笑っていらしたわね。或意味では反対ね。一日に仕事終ったときなんか、詩集をくりひろげその頁の間に顔を埋めたい気持でした。あなたはこの頃どの詩を御愛誦でしょう。私はよく「季節の思い出」「アンコール」「よろこばしき病のように」などをくりかえし読みます。「季節の思い出」の中の「口紅水仙」覚えていらっしゃるでしょう? 口紅水仙の花弁のなかにはもう一つまるく敏感な紅のふちどりの花びらが抱かれていて、春の初め、漸々水仙が開きはじめの頃、待ちどおしいやさしい指にふれられて、新鮮なその感触に花びらは戦慄しながら次第次第に咲きほころび、匂いたかくなってゆく描写。それから「よろこばしき」の中の空気の中に鳴るような一節、「ああこれは何かの病気だろうか」