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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

きょうなんかすっかり春ね。そちらにも沈丁花の花が咲いているでしょうか。おとなりの庭にあるのが下によく匂います。

十四日づけのお手紙をくりかえしよみました。花園の被害についての話[自注3]。表現はすこし風がわりですから興味をもっていろいろ文学的考察をしました。そして大変立体的にいろいろの関係を理解しましたから、私もやっぱりそのような詩趣を失わずに物語るのがふさわしいと思います。中村ムラ夫が、『花園を荒す者は誰だ!』という論文集をかきましたね、昔。結局こんな題の論文なんか書けたのは天下泰平ね。お手紙の中に泰平的テムポのことありましたけれども、あれは寧ろ大局的にはいいのよ。何故なら、もし原形のまま出ていたならそれを種として、必ず波が立ったのですから。そうすると、これからずっと様々の曲折を営んでゆく上に途が切れてしまう結果になったでしょう。芥川の小説の「極楽」というの覚えていらっしゃるでしょう? 一縷の糸につながって極楽へゆくという話。極楽ではないにきまっているけれども一縷の糸もなきにはまさります、その一縷の糸にいろんな名の人がつながって極楽へ行けた云いつたえを信ずればね。