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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
『私たちの生活』は来月二十日ごろ本になるそうです、これはいろいろのことからでしょう。まるで順調にゆけば四五日でなくなりそうな部数しか初刷しないのですって。再版がゆけばどしどしのつもりね、商売だからそれもそうでしょう、大きくない本やなのだし。
弘文堂という本やで、世界文庫という小さな本を出していて、スタンダールの『ナポレオン』なんか出しているのが、ベリンスキーの『選集』を出しました。たった六十銭の本よ。本とは何と不思議なものでしょう。たのしみにして居ります、文芸評論らしいものは何一つ近頃見ないから、食慾を刺戟され、勉学欲を刺戟され、いい小説が書きたくなりますね。ああ、ああ、いい文芸評論家がいたらば! その批評の故に、小説を書くものは励まされるような工合であったらば!
文芸批評の領域で、読者大衆がどういう風に扱われて来たかという過程は、大変面白いということを、このベリンスキーの二頁ほどで感じました。群集として見られているものの質、及びそれへの文芸批評家の視角。いつか、「どん底」の作者について書いたかしら? 彼の感覚のうちでは群集と大衆というものとの間にあるいろいろのものが、ずーっとぼんやりとしか感じとられていなくて、それが、はっきりしたのはごくの晩年であったということ。