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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

何故なら、自分だけ一人でこっそりつかう金についてはひとに口を入れさせないで、うちに使う金、働くもののために使う金、それをやかましく云うでしょう。そうすると、しわいという感じが先で、私は腹立たしく思うのよ。

そういう経済上の秘密主義に立って、こせこせ云われる空気、大きい家のあちこちにボーとした電燈しかつけておかないで、夜は薄明りの中を歩く心持、どれも私の流儀(人生への)ではないのです。

自分がそこで過した子供時代の生活がまざまざとのこっているその場処が、現在そうであるということは感じなしでいられなくて、その点では芥川の「庭」という小説ね、あれをよく思い出します。あれを思い出す、そのことに、もう一つのトーンがあるわ、生活感の。私にそれがいいことでしょうか。決して決して、そうではない。心の声がそう叫びます。その叫びは本当よ。しかるが故に、林町へ送られるのは私でなくて荷物であるべしということにもなるわけです。荷物がいつかかびたりくさったりしたって、それはものだわ、生きている私ではないわ。生きている私は飽くまで生きていなければいけないわ。本当に仕事をする生活、勉強し、精励な生活、それは、自分にこれでいいのだと納得出来ない生活からは生れず、私はいつもそうです。