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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
あなたの動機は清純なのよ。私の感情の方がケチくさいのよ。単純なめかたのはかりかたではそれきりよ。私自身これ迄そういうはかりしか自分たちの生活にとりつけていなかったようです。そこにはモラルがあって小説はないわ。私はロバになる自分をも心持の生々しい姿として、あなたにつたえ、しかもそこに私のけちくささだけに止っていない歩み出しをつけてゆけて、やっぱりこういう生活方が、高いと思うのよ。手間をかけてもね。前のようなモラルは、極めて一般的であって、それは私でないAでもBにでも特長のないものの道理の当然であってね。
生活のなかに美しさを多くもってゆくということ。そして、美しいものを、自分がながめるときの様子を、わきで見たらどんなかしらと思いました。美しいものをみる視線は不躾けでないということは味の深いことね。美しいものに対して私たちはごくつつましい眼つきを与えるか、さもなければその堰をのりこえて全傾注を面に現して、その美しさの裡に没入してゆくしかないのね。美しいものの上に視線を凝せばおのずから表情も変って、美しさはそれを見ているひとの面に映り栄えます。いろいろの場面で、自由にそういう美しさのうつっている顔をして暮したら、現代の人間の顔だちは一般にもっと気高くて情感的でしょうね。