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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
目がさめても忘られない感じです、あの水の色。ああ、じゃあと思ったときの心持。こんな風にして悲しみが再現するの面白いことですね。心理的に家がないという微妙なところが表現されてもいて。
先に、やはりあのあたりがすっかり林になってしまっていて、どこから入って行ってみても、家らしいものがなくて、よその家は樹の間にあるのに、悲しかった夢を見たこともあります。
夢は私のところへ余り漠然とあらわれず何か感じを伴うのね、余りいつも見る習慣というのでないからかしら。その夢の中から目ざめて、しばらくは身動きも出来ない優しさで胸がしめつけられるような夢は、更に更に珍宝だから、一層まれにしか現れませんし。そういう夢から目醒めると、思うのよ、私の日常の表情の奥にしまわれている表情があるということを。ほかの人々のようにその表情は私たちの生活の中で表を流れず、地下水のようであることを。いつもその地下水から直接ふきあげ井戸が、小さいとは云え何とすがすがしい味でしょう。まさにその水でこそ眠る前の体が拭かれ、頭が洗われるにふさわしいと思います。あなたはずっぷりとその水をお浴びになると、私はいかにもさわやかに背中を拭いてあげるわ。