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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
この前のとき泊っていた宿やや、会った人がありますから多分何とか様子がわかっておかえりのことと思います。生憎雨になって来て俄雨か本降りか降っている雨も我ながら分らないというふりかたです。けさ初めて一輪咲いた紫色の朝顔にその雨がかかって居ます。すぐ前のとうもろこしの生々とした青い葉がその雨にぬれて輝やいています。
そういうわけだからユリの先輩ぶりも一向に発揮されず、お手紙にあると同じように、マアきょうは涼しいから臥ていても楽だろう、などとたよりのない評定をしているだけでした。
紀のこと、そうお? ちっとも知らなかった。だから私たちみんな、仕度なんかどうだっていいんだから早くちゃんとしろとあんなにすすめていたのに。寿江子何をまごついたのか一筆も申してよこしません、もう東京にいないのでしょうね。いやんなっちゃう、というのは、この間、お中元の買物をしていて、偶然出会って、丁度私お金が不足して、あっちはボーナス間ぎわだからと大見得切って十円かりていたのよ、いやねえ。あのひとは太原にいて、死にそこなったのよ。可哀そうに。
こちらの調子は、順調です。順調ながら、やはりいろいろとあって、会社長になっているYが、自動車自分でかりて儲けたいのね。