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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
大変居心地よさそうよ。さっぱりと清潔で、生活の弾力とよろこびと労作のつやにかがやいているようよ、何と私たちの家らしい家が思われるでしょう。今は心のどこかに、一つのはっきりしたそういう家が出来ています。その変化に心づいていたところへ、家の話がかかれていて、私の胸の中にある思いは、つよくて切れない絹糸のように、そこのところをキリキリと巻いてしめつけるの。しかも一方に腹立たしいところもあるの。そんなに鮮やかに、私たちの家が、明るくどこかに在る感じがするということが。分るでしょう?
本を焼かないようにということもなかなかのことで、殆ど手の下しようがないことです。今書庫なんて建てようもないし、でも追々うちの建築家と相談して、今ある設備を百パーセントにつかう方法は考えましょう。
引越しのゴタゴタの間、つかれるとちょいとひろげては、モームの「月と六ペンス」ゴーギャンの生活から書いたという小説をよみました。ゴーギャンは、ロンドンの株屋だったのね。それが四十歳を越してから絵をかきたくて家出してしまうのよ。モームという作家は、やはり大戦後の心理派の一人で、そういう欠点や理屈づけや分析やらをもっていますが、イギリスの作家の皮肉というものは、皮肉そのものが中流性に立って居りますね。