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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
来年からは、私たち流のをやりましょう。特別何年祭とかいうのでなければ、それで結構よ。夜だって、父の話なんか一人もしやしない、隣組のことだの配給のことだの。しかしそれは私は面白いと思いました、作家の心として。人間が、どんなに生活の現実の刻々に切実かということが感じられて。
うどん粉がありませんから、料理でうすいうどんこからこしらえた皮を出すところをパンにしてあったりして。今もしお父様やお母様がいらしたらどんなに困っていらしたかしれないと国男が云い出して、皆笑って、そしてそのパン的御馳走をたべている。一つの光景でしょう?
きょうはなかなか寒く、いかにも寒中らしい空気です、上り屋敷の駅に立っていたら、秩父連山が青くむこうに見えました。この部屋は殆ど大抵火鉢なしです、日がよくさすから。でもきょうは机の板がつめたく感じられます。手袋ホコホコでよかったこと、あれは傑作のうちね、もうあんな柔かい可愛いのはないわ。大事にして、又来年寒中だけつかいましょう、前後はすこしわるいので辛棒して。きょうは、いかにも寛闊な、インバネスの翼が肩の上にあるような気分です。そうでしょう?