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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
が、そんなら己は何の為めに出かけたのだ? ナオミを奴等へ見せびらかすため?―――そうだとすれば己もやっぱり虚栄心のかたまりなのだ。ところで己がそれほどまでに自慢していた宝物はどうだったろう!
「どうだね、君、君がこの女を連れて歩いたら、果して君の注文通り、世間はあッと驚いたかね?」
と、私は自ら嘲るような心持で、自分の心にそう云わないではいられませんでした。―――
「君、君、盲人蛇に怖じずとは君のことだよ。そりゃあ成る程、君に取ってはこの女は世界一の宝だろう。だがその宝を晴れの舞台へ出したところはどんなだったい? 虚栄心と己惚れの集団! 君は巧いことを云ったが、その集団の代表者はこの女じゃあなかったかね? 自分独りで偉がって、無闇に他人の悪口を云って、ハタで見ていて一番鼻ッ摘まみだったのは、一体君は誰だったと思う? 西洋人に淫売と間違えられて、しかも簡単な英語一つしゃべれないで、ヘドモドしながら相手になったのは、菊子嬢だけではなかったようだぜ。それにこの女の、あの乱暴な口の利き方は何と云うざまだ。仮りにもレディーを気取っていながら、あの云い草は殆ど聞くに堪えないじゃないか、菊子嬢や綺羅子の方が遥にたしなみがあるじゃないか」