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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
それがそうでないと知ったのは、あなたが始めてエルドラドオのダンスに来られた時分でした。けれども僕は、………もうその時はどうすることも出来なくなっていたのです」
「ナオミがこの夏、鎌倉へ行きたがったのは、君と相談の結果なのじゃないでしょうか?」
「いいえ、あれは僕じゃないんです、ナオミさんに鎌倉行きをすすめたのは熊谷なんです」
浜田はそう云って、急に一段と語気を強めて、
「河合さん、欺されたのはあなたばかりじゃありません! 僕もやっぱり欺されていたんです!」
「………それじゃナオミは熊谷君とも?………」
「そうです、今ナオミさんを一番自由にしている男は熊谷なんです。僕はナオミさんが熊谷を好いているのを、とうからうすうすは感づいていました。けれども一方僕と関係していながら、まさか熊谷ともそうなっていようとは、夢にも思っていなかったんです。それにナオミさんは、自分はただ男の友達と無邪気に騒ぐのが好きなんだ、それ以上の事は何もないんだって云うもんだから、成る程それもそうかと思って、………」
「ああ」
と、私はため息をつきながら云いました。
「それがナオミの手なんですよ、僕もそう云われたものだから、それを信じていたんですよ。