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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

悪いことは云わないから、外に奥さんをお貰いなさいよ、そうしたらヒステリーが直るかも知れないから」

ナオミは私が何を云っても、しまいにはもう、うふうふ笑うだけでした。そして間もなく、

「もう寝るわよ」

と、ぐうぐう空鼾をかき出しましたが、やがてほんとうに寝入ったようでした。

明くる日の朝、眼を覚まして見ると、ナオミはしどけない寝間着姿で、私の枕もとに坐っています。

「どうした? 譲治さん、昨夜は大変だったわね」

「うん、この頃己は、時々あんな風にヒステリーを起すんだよ。恐かったかい?」

「面白かったわ、又あんな風にさして見たいわ」

「もう大丈夫だ、今朝はすっかり治まっちまった。―――ああ、今日は好い天気だなあ」

「好い天気だから起きたらどう? もう十時過ぎよ。あたし一時間も前に起きて、今朝湯に行って来たの」

私はそう云われて、寝ながら彼女の湯上り姿を見上げました。一体女の「湯上り姿」と云うものは、―――それの真の美しさは、風呂から上ったばかりの時よりも、十五分なり二十分なり、多少時間を置いてからがいい。風呂に漬かるとどんなに皮膚の綺麗な女でも、一時は肌が茹り過ぎて、指の先などが赤くふやけるものですが、やがて体が適当な温度に冷やされると、始めて蝋が固まったように透き徹って来る。