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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「あの御紹介いたしますが」
と、女史は私のもじもじするのに頓着なく、例の縮れ毛の婦人の方を指しながら、
「この方は横浜のジェームス・ブラウンさんの奥さんでいらっしゃいます。―――この方は大井町の電気会社に出ていらっしゃる河合譲治さん、―――」
成る程、するとこの女は外国人の細君だったのか、そう云われれば看護婦よりも洋妾タイプだと思いながら、私はいよいよ固くなってお辞儀をするばかりでした。
「あなた、失礼でございますけれど、ダンスのお稽古をなさいますのは、フォイスト・タイムでいらっしゃいますの?」
その縮れ毛は直ぐに私を掴まえて、こんな風にしゃべり出したが、「フォイスト・タイム」と云うところがいやに気取った発音で、ひどく早口に云われたので、
「は?」
と云いながら私がへどもどしていると、
「ええ、お始めてなのでございますの」
と、杉崎女史が傍から引き取ってくれました。
「まあ、そうでいらっしゃいますか、でもねえ、何でございますわ、そりゃジェンルマンはレディーよりもモー・モー・ディフィカルトでございますけれど、お始めになれば直きに何でございますわ。………」
この「モー・モー」