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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「お寄りあいの模様じゃな」

阿賀妻のくぼんだ眼が赤くひかった。

そこの表の間にいた五六人の藩士たちを、彼は見わたしたのだ。計画された何ものかを見て取った。彼らは土間に立ってひと塊りになって頭をさげていた。そして彼らが顔をあげるまでのまことに短かい瞬間であった、――あお黒い阿賀妻の頬に血がみなぎって来た。彼は肩をつきあげるようにして云った。

「お揃いで、それぞれ拙者に用があるというわけか、案内をしなさい」

吉原兵太郎はうしろにうな垂れていた。

「――――」

「おぬしの家内どもは居らんのか、あそびに出したというわけか」

「――――」

「どこに通ればよいのじゃ」

阿賀妻は重ねて、のしかかるようにそう云った。

一人の藩士が見兼ねて駈けあがった。彼は奥の間のふすまを開けて、閾ぎわに手をついた。

「設けの席か」阿賀妻はそう吐きだすのだ。

彼は藩士たちをしり目にかけて、古びたそこの奥座敷にはいって行った。行燈のすすけた灯が暗い部屋ににじみ出ていた。とこの間を背にして、座蒲団が置かれ、胴丸の手焙りにいけた炭火がいやに赤々と見えた。

「しばらくお待ち下さい」

襖がうしろで閉った。