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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「ご無事で、何より、――安堵いたしましたよ」と大沼は眼尻のしわを波立たせた。
ま近く、その年よりも老けた相手の顔を見て、阿賀妻は自分に、ま正面から額を突かれたような乱れを感じた。
「ご心配をかけまするな」と彼は弱々しく云った。忠言却って郷友の恨みに添い――と、そういう七つの文字が胸に描かれていた。
「それよりもご家老、殿が、のう――」と大沼は云うのだ。
「殿が――」と阿賀妻は噛みしめるようにゆっくりくりかえした。
彼らは提灯を前に、阿賀妻をまン中に挾んで歩き出した。
「お舅どのもお待ちかねでござろうよ」
「お旦那さまこそ――」と、甚助は自分の主人を云うのであった。
阿賀妻の足は重くなった。つかれ果てたようなもの憂さであった。
これだけ気にかけられていたことは、家中における反阿賀妻の空気がそれほど険しくなっていた証拠であった。知らないのはそのご本人だけであったのだろう。したがって、彼が藩士におびき出されたことにはさまざまな興味が湧いていた。家中のものは、どこか――わかい藩士らの間に、陰謀らしいもののあることをまったく知らぬではなかった。しかもその相手である阿賀妻は、彼ら平藩士の一隊が束になって当っても、ちょっとどうすることも出来ない程の人物であることは役付きの連中こそ一番よく知っていた筈だ。