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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

あっさりと学生風な身なりをしている伸子の顔の上にじっと眼をすえて、同じ言葉がくりかえされた。男のその眼の中には、日ごろ客たちに向ける愛想よさのうらをかえした冷酷ないやな感じがあった。

「まだきめていない」

答えながら、伸子はカウンターにずっと近よった。

「しかし、あなたのその質問は、普通、ホテルのマネージャーとして、客に向って試みない質問ですよ」

それに答えず、ぶっきら棒に、

「あなたは、うちの食堂で食事をしない」

そう云った。

一度昼食をたべたことがあったが、ここの料理は、こってりしたソースで肉や魚の味をごまかしてあって、伸子の気にいらなかった。

「それは別の問題です。あなたのホテルは、ホテルでしょう? 食事付下宿じゃない。入口には、ホテル・モンソー・エ・トカヴィユとありますよ」

五十がらみの男の胆汁質な顔に、むらむらした色がのぼった。

「わたしたちは、あの部屋からもっと儲けることができるんです」

話は露骨で、強引になって来た。丁度ホテルは午前九時から十時の朝飯の刻限で、カウンターのすぐ横にある狭い食堂の中には、女客の方が多い泊り客たちが食事をしていた。