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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子が云いあらそっているとき、わざとゆっくりカウンターのわきを通りすぎながらきき耳をたてていた男女や、必要以上ゆっくり食堂に腰をおろしていた連中の顔の上には、自己満足があった。学生らしい身なりをしていて、ろくな交際もないらしく、一人で出入りしている若い女、ホテルに余分な一フランも儲けさせない女。そんなこんなで、マネージャーにいやがらせを云われている女。小綺麗なモンソー公園の近くに、その名にちなんだしゃれた唐草模様ガラス扉をもっている小ホテルのカウンターでくりひろげられたのは、バルザックの小説のような場面だった。
伸子は、たかぶった自分をしずめるためにペレールの家の前を通りすぎて、ペレール広場まで行って、そこからもどって家へ入った。
ペレールの食堂では、泰造と多計代のジェネ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)行きについて、その小旅行につや子をつれて行くか、行かないかの相談最中だった。
「どうします? つや子」
泰造らしく、末娘の意見をきいている。その調子のどこかに、重荷を感じている響があった。手荷物の多い多計代一人が道づれでも、税関その他での心労が、六十歳をこした泰造には相当こたえるらしかった。